『真夜中の電話にはご注意を!』 4

おとなのホビー

オカルト探偵倶楽部表紙1 


『真夜中の電話にはご注意を!』
 
 

麻美はその場から動くことが出来ず、ただ洋平の瞳をじっと見つめている。

「目がどうした?」

「目が・・・。瞳が・・・。青い・・・」

 それだけ言うのが精一杯だった。洋平の瞳から目を逸らす事が出来ない。そう、なぜか洋平の瞳は全ての事を見透かしてしまうのではないかと思えるほど、澄んだ紺碧の瞳をしていた。雰囲気も少し変わっている様に見える。
 洋平は麻美越しに一点を見つめている。麻美もそれに気付いたのか、振り返って洋平の視線を辿った。そこには事務所がある。

「洋ちゃんどうしたの?」

 麻美が不安そうに聞くと、突如事務所の奥、先程から見つめている所に向かって歩き始めた。周りに居た者も紺碧の瞳に魂を吸い取られたかの様に身動きが出来ない様で、洋平が通り過ぎるのをただ見ているだけだった。
 洋平は血痕の付着したロッカーの前まで来ると、その場にしゃがみこんで血糊を確認し、立ち上がると、そのロッカーに向かって何かぶつぶつと呟き始めた。誰かと会話している様にも見える。辺りは静まり返っていて物音一つたてる者はいない。洋平は大きく深呼吸すると、振り返り店長に視線を向けると、

「どうしてこんなことをしたんですか?」

 店長はビクッとしたが、

「な、何のことだい」

「知らを切っても駄目ですよ」

 紺碧の瞳で見据えられた店長は呼吸さえ止まっているように微動だにしなくなった。

「今、白河さんと話しをしました。あなたは白河さんに暴行を加えようとしましたね。未遂に終わったようですが。・・・その際あなたは白河さんの抵抗にあい、手首を切ってしまった。その時の血がこれですね」

 残された血痕に視線を向ける。

「だから何を言ってるんだい。私は何も知らないよ。それにこれだけの出血があったら病院に搬送されているよ」

 薄ら笑いを浮かべながら、冷静さを保とうとしている様子が手に取るようにわかる。

「この血液の大半は人間の物ではないですね!他の動物の血を混ぜて血液から身元が割れないようにしたつもりでしょうが、そんな事をしても今の科捜研の技術では僅かな成分からでも個人を断定できますからね」

 店長の顔が僅かに引きつってきた。

「このカラオケ店の三階があなたの住まいですよね」

 洋平はそう言うと、階段に向かって歩き始めた。麻美が後を着ける様に追いかける。周りの者も自分の意思とは無関係に足が勝手に動き、蟻の行列の様に洋平の後を追った。
 三階の店長の部屋の前に来ると。

「麻美、白河さんの携帯番号知ってるだろ。ちょっとかけてみてくれ」

 麻美は“どうして?”と説明を求めることも出来ず、ポーチから携帯を取り出して白河緑の番号をコールした。部屋の中から小さなメロディ音が聞こえる。しかしそれを取る者はいなかった。

 麻美は耳から電話を離すと首を振った。

「大丈夫だ。白河さんは生きているから」

 そう言うと店長に向かって手の平を差し出した。店長が催眠術にでも掛かっているかの様に何の抵抗もなく部屋の鍵を差し出す。
 洋平は鍵を受け取ると、鍵穴に差込開錠した。ゆっくりとドアを開ける。中は薄暗く何も見えないが、奥の方から微かに人の気配を感じる。照明も点けず、土足のまま出部屋に入ると、まるで見えているかの様に、はっきりとした足取りで奥に進んだ。そして部屋の片隅にある今では貴重なジッパー式のクローゼットの前に立ち、おもむろにそのジッパーを開放した。

“ドサッ”

 中から女性らしき人物が転がり出てくる。その女性は下着だけの半裸状態で、クローゼットの奥にはその女性の物と思われる衣服が丸めて置かれていた。所々破れている箇所が見られる。
 洋平は上着を脱ぐと目の前の女性にそっとかけ、首筋に手を当て脈を確認する。そして麻美の方に振り返り小さく頷いた。
 麻美が近づき白河緑というのを確認する。そこから先は麻美の独断場だった。てきぱきと辺りにいる者に指示を出し、救急車や警察そして白河の両親に連絡をとる。
警察が到着した時には、全てが綺麗に収まっていて、ただ店長で白川綠の叔父である白河雅人の身柄を拘束しただけだった。




 

 

 翌日正午を過ぎた頃、洋平と麻美は白河緑の見舞いに行った。彼女は別段大きな外傷も無く大事には至らなかったようだ。思いのほか元気だった。軽く会話を交わし病室を出て廊下を歩いているとき、

「白河さんってお姉さんか妹がいる?」

「そう言えば、五年前に事故でなくなった二つ上のお姉さんがいたと思うけど」

「そうか。じゃああの電話は・・・」

 洋平は最後まで言わなかった。

「でもどうしてわかったの?」

 それは白河の姉のこと言っているのか、昨夜のことを言っているのか判らなかった。

「昨日どうしてあそこに白河さんがいるとわかったの?」

 麻美も洋平が何に対してのものか迷っていると思ったので今度は具体的に聞いてきた。

「あのカラオケ店に行ったのは偶然だと思うけど、昨夜の奇妙な携帯の番号表示と、その後の気味の悪い電話、それと店長の手首の包帯から発していた意味不明の感覚、後は叔父である店長が白河さんの行方不明を知らないはずがないし、そんなことを照らし合わせると頭の中で何かが一つに繋がって・・・。後は説明が難しいけど解ってしまったという感じかな」

 解ったような解らないような、釈然としない麻美は、

「それにあの時洋ちゃんの瞳・・・」

 途中で会話を止める。昨夜の洋平の身に起きた出来事が本当にそうだったのか確信が持てなかったのだ。しばらく二人は無言のまま廊下を歩いていると。

『ありがとう。』

 誰の声とも判らない、流れるような声が洋平の耳を心地よく通り抜けていった。足を止め振り返る。

「どうしたの?」

 麻美が急に立ち止まった洋平に言った。

「何でもない」

 空耳と思ったのか、再び前を向き歩き始める。その後で白河緑によく似た優しい顔をした女性が微笑みの眼差しで洋平の背中を見つめていた。

洋平も背中越しに優しい気配を感じて、気持ちも晴れやかに足取りも軽くなって来る。その時の洋平の瞳は日本人特有の漆黒の瞳をしていた。

 

 





 

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