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「嗤う鬼火」 7

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   今までに書いたイラストや小説の保管場所。最近読んだ本で、個人的に面白いと思ったものを紹介しています。



「ねえ。私もまぜて!」

  不意に背後から声が掛かり、振り返るとさっきまで付けていたエプロンを外した佐緒里さんが近づいてきて注文の品をみんなの前に置くと、近くにあった椅子を引っ張り私と直角になるような位置に座った。

「良いのか?」

 倉橋君が少し面倒臭そうに言う。

「今日はこれでおしまい。お父さんが折角だから一緒に話をしてくればって」

 今日はこれでおしまいって。今午前十時、これから忙しくなってくるんじゃないかと多少の心配をしながら、改めて佐緒里さんを見た。髪を肩上辺りで綺麗にそろえていて少しきつそうに見えるけどとても綺麗な顔立ちをしている。きっとこういうのを美人って言うんだろうな。どことなく倉橋君と似ているような気もする。

「あなたが志緒理さん?」

 佐緒里さんが私の方を見て声を掛けてきたので慌てて視線をそらす。その行為か何だか嫌な態度に取られそうで再び佐緒里さんの方に視線を向けると。

「はい。倉橋志緒理です」

 少しどきまぎしながら一オクターブ高い声で返事をしてしまった。あ~!私何焦ってるんだろ。

「巧巳が見初めるだけあって可愛いわね」

「!」

 えっ!今なんて!私は何かの聞き違えかなと思い、佐緒里さんの顔をしばらく見つめ、今度は倉橋君の方に向いた。

 倉橋君は冷静さを保っているようだけど、どことなく表情に強張りがあるのは気のせい?

「さっき少し聞こえたんだけど、どうして巧巳に霊傷とかがわかるかって言うと」

 突然話を戻され、最も聞きたい事が聞けなくなってしまった。出来ればもう少し詳しく話を聞きたかったのだけど・・・。

「巧巳のお父さんとお母さん、十年前に飛行機事故で亡くなって、兄妹もいないし天涯孤独になっちゃったんで、私のお父さんが引き取ることにしたんだけど、その頃から少し変わった子だったのよね」

 倉橋君の両親が亡くなっていたなんて知らなかった。だからあんなに哀愁を漂わせているのかな?そんなことを考えていた私の横で、佐緒里さんは倉橋君の前に置いたミックスジュースを手に取ると自分の物のように刺してあるストローに口を付けた。

 なっ!さっき倉橋君が飲んでたから、それを飲むって事は、間接キッス!

「私も最初は取っつきにくい子だなって思ってたんだけど、十年も一緒にいると色々と解ることもあってね」

 何事もないように話を続ける。

「簡単に言うと巧巳は特異体質なのよ。信じる信じないは別にして」

「特異体質?」

 私の興味は完全にこちらの話に移行してしまった。特異体質ってテレビでやっているような奇人変人体質のことかな!?

「特異体質って行っても奇人変人みたいな者じゃないのよ」

 考えを見透かされたみたいで、少し恥ずかしくなって俯いてしまった。

「どう説明すればいいのかな・・・。簡単に言えば霊能力みたいなもので、要は人に見えないものが見えるって言うか・・・。まあ幽霊が見えるって事かな」

 一旦言葉を止め、再び倉橋君のミックスジュースを飲む。何で?自分のを頼めば、いや作ってくればいいのに。

「でもね、いつも見えるっていう訳じゃないみたいで。本人曰く何かの拍子にスイッチみたいなものが入るんだって。いつどこでどんな状況で入るのかは分からないみたいだけど」

 俄に信じがたいことをサラッと言いのける佐緒里さんを見ながらも、ついつい倉橋君のミックスジュースに視線が行ってしまう。

 この二人どんな関係?・・・気になる・・・。

「それで昨日倉橋に夜気を付けろって言ったのか。で何が見えたんだ?」

 中馬君は何かを納得したように言った。佐緒里さんの言ったことを疑うことなく信じたようだ。まあ倉橋君との付き合いも長いようだからそれなりに感じていたことがあったのかもしれないけど。

 でも倉橋君はその中馬君の問いに答えようとはしなかった。何か言いにくい事でもあるのかな!私に関することだから多少の不安を感じる。

 そう言えばあのことを言ってなかった。

「私もう一つ言ってない事があるんだけど」

 私のその言葉に四人の視線が一斉に私の顔に突き刺さった。なぜだかその視線に痛みを感じながら、

「昨日人恋坂で鬼火を見たとき。誰かが私の肩を叩いたような気がするの」

 私達は横向きに一列に並んでいて、背後には五人目の存在がない限り絶対誰もいなかった。鬼火に関しては中馬君の悪戯だったようだけど、あの時の感覚は今でもはっきり覚えている。その時の状況を簡単に説明した。

 佐緒里さん以外は現場にいたので状況の飲み込みが早いようだ。

「気のせいじゃないの?」

 佐緒里さんが一笑に付した。

「私も最初はそう思ったけど、佐緒里さんの話や、この手首の痣のことを考えるとひょっとして誰かが居たのかなって」

 その時の状況を思い出して私は小さく身震いした。その行為に反応してくれたのか倉橋君が重い口を開き始めた。

「確かに俺にはいつもって言う訳じゃないけど人に見えないような何かが見えるときがある。あの時みんなも見てたと思うけど女の人の霊が現れ、彼女が消えたときその場所にまだ小さな玉のようなものが残ってたんだ。これは多分みんなには見えないものだったんだと思う」

 確かに私にはそんなものは見えなかった。

「みんなが走って逃げ始めたら、その玉は追いかけるようにみんなの方に移動して、その玉が俺の横を通過したとき、その玉の中に女の人の顔が見えたんだ。その顔は俺の方を横目で見ると、まっすぐ倉橋の方に向かっていき、背中にぶつかったように見えたんで、俺は中馬に連絡して倉橋に注意するように言ってもらい、しばらくその場に居たんだけど、その後何も起こらなかったので家に帰ったんだ」

 あの無口な倉橋君が何とこんなにも言葉を発するとは、やれば出来るじゃない!

「多分その時の霊が倉橋に憑いて何かを訴えようとしたんじゃないかと思う」

 そこで閉口してしまい。次の言葉は出てきそうになかった。

 私に霊が憑いてるの?今の話だと偶然私という訳ではなく意図的に私に憑いたように聞こえたけど、なぜ私?

「それ程邪気のようなものは感じなかったから大丈夫と思うけど用心するに越したことはないから」

 私を安心させようと思ったのか、倉橋君はいつもの無愛想な表情に戻り私に言った。これって照れ隠しなんだとわたしは倉橋君の性格の一部を垣間見たような気がして少しうれしかった。

 それから大した話の進展はなく、会話はごく一般的な世間話になっていき、お昼前には解散した。中馬君と美歩はせっかくの日曜だからといって二人で映画を観に行ってしまった。私と倉橋君と佐緒里さんはしばらく「アルテイシア」にそのままいてたわいのない話をしていたが、時間も正午を過ぎた頃お客さんも少しずつ増えてきたので、佐緒里さんは再び店の手伝いに戻り、私と倉橋君も余り長居をしても悪いので店を退出することにする。

 店を出ると私と倉橋君は肩を並べるようにして歩いた。しばらく無言状態が続いたが、思い切って私の方から声を掛けた。

「倉橋君って、佐緒里さんの家に一緒に住んでるの?」

 こんな事聞いて良いのかな?

「俺が五歳の時、両親が事故にあったから、それ以来ずっとおじさんに世話になっているし、佐緒里は姉貴みたいなものだから、相談なんかにも乗ってもらっている」

 前を向いて歩きながらボソッと言った。

 佐緒里さんが倉橋君のことをどう思っているか分らないけど、倉橋君は佐緒里さんのことをお姉さんみたいに思っているのか!少しほっとしたような・・・でもどんな相談しているんだろう?恋愛の相談とかしているのかな?

 余りイメージがわかないけど・・・。

「ねえこれからどうするの?」

 まだお昼過ぎ、時間はたっぷりある。私は期待を込めて言ってみた。

 

 

 




 

最初から読む       「嗤う鬼火」8に続く



では後ほど!




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