「嗤う鬼火」 17

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   今までに書いたイラストや小説の保管場所。最近読んだ本で、個人的に面白いと思ったものを紹介しています。



 


 「志緒理!」

 お母さん?

 その声で私は目を覚ました。ゆっくりと目を開ける。白い天井、見慣れたライト、間違いなく私の部屋だ。私の意識は少しずつ現実味を取り戻していく。顔を横に向けるとそこにはお母さんの顔、そしてその隣に倉橋君の顔があった。

「あれ! 私何で?」

 所々記憶が欠如している。白いワンピース姿の野瀬さんが現れて、その後下腹部に劇激痛がおそってきて、何だか急に意識が遠のいてきて、ふわふわした感覚にとらわれて……。

「気が付いた?あなた急に倒れたらしくて巧巳君が背負って連れてきてくれたのよ」

 あのふわふわした感覚って倉橋君の背中の上だったの?

 私は急に恥ずかしくなって、掛け布団を鼻の先まで持ち上げた。顔が少し赤くなっているのかな?

 ん!

 今、お母さん巧巳君って言った?私でさえそんな呼び方したことがないのに。

「人恋坂で車にはねられそうになって、巧巳君が助けた際に転倒して気を失ったみたいだけど大丈夫? 頭とか打っていない?」

「大丈夫! ちょっとびっくりしただけだから」

「本当にもう。気を付けなさいよ」

 お母さんは倉橋君の方を向いて、

「ありがとうね。巧巳君のおかげでたいしたことにならなくて本当に良かった。志緒理もちゃんとお礼を言っときなさいよ」

「うん」

 倉橋君本当のことをお母さんに話してないんだ。確かに話してもあんな事信じてもらえるとは思えないし。お母さんの心配が大きくなるのを避けるためでもあるのかな!

 お母さんが部屋から出て行くと二人だけになり、何となく気まずい雰囲気になっていった。

「ありがとう」

 私は恥ずかしかったので、布団を顔に被せたまま小さな声で言った。でもあの腹痛は何だったのだろう?野瀬さんはあの時天に昇って行ったのに。それにあの時の倉橋君の『まだだ』という言葉はどういう意味だったのだろうか?

 私が視線を空に浮かせて考えていたのを怪訝に思ったのか、

「本当に大丈夫か?」

 倉橋君が私を覗き込むように言った。

「うん。でもあの時倉橋君は『いや、まだだ』って言ったよね。それってどういう意味だったの?」

 私は今しがた考えていたことを言葉にした。倉橋君は言いにくそうだったけど、意を決したのか、

「倉橋の体の中に野瀬さんとは違う、もう一人の誰かが入り込んでいたんだ」

 またしても聞きたくなかった言葉。

「最初に倉橋の前に現れて手首を掴んだ女性と、その後に現れた女性は別人だったんだよ」

「でも同じ顔をしていたような気がするけど?」

 考えてみれば、最初に見た女性はあまり怖さを感じなかったけど、一昨日見た女性には確かに恐怖を感じた。

 でも顔は同じだったような気がする。思い出したくもない思い出したせいか、私は小さく“ぶるっ”と震えた。

「それは、野瀬さんが双子だったからだよ」

そうだったの?でも私は野瀬さんのこと知らないし、どうして野瀬さんが私の中に入っているのかという理由も分からない。

それに、野瀬さんのお姉さんか妹かわからないけど、その人が私の中にいるということも全く理解できない。

「野瀬さんの妹に当たる彼女は、お姉さんの弘美さんが亡くなる一ヶ月前に、同じように事故で亡くなっているんだ。事故と入っても自殺に近い状況だったらしい、自ら崖に突っ込んでいったみたいなんだ」

 片岡さんの新聞記事の“呪い”というのはここから来ているのかも。

「でも、なぜ妹さんは自殺みたいなことを?」

「よくある話だけど、彼女も片岡さんに好意をもっていたらしい。時々姉のふりをして片岡さんに会っていたみたいなんだ。片岡さんもどことなくおかしいとは思った時もあるらしいけど、あのそっくりな容姿にはっきりとは気が付かなかったようだ」

 そんなことがあったんだ。何だか悲しい出来事のように感じる。もし私に同じ境遇が起こったらどうしただろう?

 倉橋君が話を続ける。

「お姉さんの弘美さんと片岡さんの結婚が決まった時、彼女は喜んで良いのか、悲しんで良いのか、どうしていいか分らなかったんだろう。それから直ぐにその事故が起こってしまった。自暴自棄になっていたんじゃないかと思う」

「妹さんが私の中に入る意味がよく解らないけど?」

 私の素朴な疑問。

「倉橋の中に入っていたと言うより、弘美さんの中に入っていたんだと思う。亡くなってまでも片岡さんの近くにいたかったのかもしれない。そして倉橋の体の中で二人の人格に分離したんだ」

 私の身体の中で、私の許可もなく何てことが起こっていたんだろう。そう考えると怖くなってきた。

「でも、もう大丈夫だ。倉橋は元の倉橋に戻っている」

 元の私?倉橋君から見て元の私ってどんな私?

「取り敢えず今日はゆっくり休んだ方がいい、精神的にも参っているだろうし」

 倉橋君はそう言うと立ち上がり、

「明日の朝、迎えにくるから」

 そう言って私の部屋から出て行った。

 


最初から読む       「嗤う鬼火」18に続く



では後ほど!





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