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幼馴染は婚約者 「写真部怪奇事件」     第一章 「撮影会を始めます」 2

第一章 「撮影会を始めます」 2



 

 午後十二時半キッチリに早川美穂はやってきた。めったに見ることのない制服以外の服装に、さすがに色恋沙汰に興味のない圭介も目をパチパチさせて彼女を見た。他の四人については言うまでもなく彼女を見入っている。

 白いフリルの付いた膝上十センチ程のフレアスカートに細く白い横シマの入ったピンクのシャツ、その上から羽織った純白のカーディガン、足には膝上まで来る黒のタイツを履いている。まるで二次元の世界から飛び出してきたような愛くるしい服装をしている。

「中山君! こんな格好でよかったかしら?」

 スカートの裾を左右に少し広げて、テレビでよく見るアイドルが取るようなポーズをとり、天使、いや小悪魔のような微笑をして言った。

「あ、ああ」

 圭介は少し動揺したような表情で答える。

「しかし、よくそんな衣装を持っていたわね? 普段絶対着ないでしょ」

 由貴が呆気にとられた声色で言った。

「演劇部から借りてきたのよ。流石にこんな格好しないわよ。更衣室からここまで来るのだって恥ずかしかったんだから」

 由貴と美穂は同級生ということもあって、気さくに話をしているが、他の者、特に下級生は憧れのマドンナを前にしてどう対応していいのか迷っている。男子生徒である悟志は完全に萎縮しているようだ。

「山本君、早川君と早めに打ち合わせを始めて」

 圭介が動揺を誤魔化すように急かし気味に言った。

 そんな圭介の横にいた唯一の一年生真理恵が、肘で軽く圭介を突いた。まだ部員の誰も知らないが、圭介と真理恵は幼馴染だ。小さいころから二歳上の圭介を真理恵は兄のように慕っていた。圭介が高校一年、真理恵が中学二年の時に、真理恵の方から圭介に告白して付き合うようになった。お互いの両親も納得の上で、将来の結婚までも双方の親同士で決めてしまい、既に仮婚約の儀式までも行っていた。

 そんな関係の圭介が学校のマドンナに見惚れて動揺している姿を見て面白く感じるわけがない。

「部長! 早くセッティングしないと時間が勿体ないですよ」

 真理恵が皮肉っぽく言う。圭介もバツが悪そうに、

「そうだな、少しでも有効に時間を使わないとな」

 凝り性の圭介は、午前中のセッティングに納得がいかず、今もカメラの位置やストロボと反射板の配置に手間取っていた。

「ところで長谷川君のカメラは?」

 圭介は仮婚約者の真理恵のことも校内では名字の君付けで呼んでいる。

「ここにありますよ」

 制服のポケットから小型のデジタルカメラを取り出す。

「そんなんじゃ撮りにくいでしょ! もう一台持っているから貸そうか?」

「いいですよ、私はこのカメラが使いやすくて気に入っているんです」

 そういって圭介の方にカメラを向け“パシャ”とシャッターを押した。この会話を聞いている限り、二人の関係が親しいものだとは誰も思わないだろう。気さくな関係の先輩後輩にしか見えない。

 撮影が始まると、五人の部員は一斉に自ら持ってきたカメラを取り出し思い思いのシチュエーションでシャッターを押していく。圭介のように一眼のカメラを持って撮っている者もいれば、その辺りに転がっているようなハンディカメラで撮っている者もいる。

 撮影の合間に早苗が髪型を直したり、ポーズの要求を的確に指示し、美穂も巧く立ち回ってあっという間に二時間が過ぎていった。

 各々が自分なりに画像を確認して、全ての撮影が終わると、

「じゃあ、この教室をみんなで片付けて部室に戻ろうか」

 圭介の言葉に、部員たちは自分の荷物をそのままにしてそそくさと教室を片付け始めた。モデルの美穂も手伝い、わずかな時間で元の状態に戻し、最期に戸締りを確認して教室を後にする。一行は写真部の部室として与えられた物理第二準備室に向かった。

 写真部の部室には何もない。第二準備室ということもあってか、余り使われてはいなかったようで、あるものといえばどこの学校の理科室でも見かけるような濃い灰色をした実験用の器材を片付けている実験棚が二台と同じく実験用のテーブルが二卓、それに伴う椅子が全部で八脚あるだけだ。棚の中には何も入っていないし、テーブルの上も使用している一卓以外は埃だらけになっている。

部に昇格して一ヶ月、基本的には部室として使うことはほとんどなく、形だけの部室と化した教室に久しぶりに入ると、圭介はバッグの中から個人使用のノートパソコンを取りだし、唯一使用しているテーブルの上に置いて電源を立ち上げた。ジ、ジ、ジという音と共にディスプレイに明かりがともる。しばらくしてOSが立ち上がると、まずは圭介の写真データの入ったSDカードをパソコンに差し込む。ソフトが自動起動し一覧のサムネイルが表示され、それを本体のハードディスクに保存した。そして由貴、悟志、早苗、真理恵の順にデータを取り込み、全てのデータを取り込むと今度は最初の画像から全画面表示にしてゆっくりと見ていく。

小さなノートパソコンのディスプレイの前に、五人の部員と美穂を含めた六人が固まるようにして集まり確認作業に入った。

モデルが良いのか、写し手が上手いのか、どの写真も綺麗に撮れている。写真で見ても美穂は目を見張る程美人に写っていた。

 「あれ?」

悟志が妙な声を出す。今写し出されているのは悟志の撮ったデータなのだろう。

「ちょっと待って下さい。一つ前に戻ってもらえますか」

「どうした?」

圭介が画像を一つ戻す作業をしながら問う。

 「いや、何だか変なものが写っていたような気がして……」

 一つ前の画像が写し出された。

 美穂が髪をかき上げる仕草が写し出されていて、飾り気のない良い写真だ。美穂の綺麗な顔立ちから施されたこのポーズと表情に色気を感じずにはいられない。

 しかしよく見ると、髪をかき上げている腕の後ろ辺りに何かボヤッとしたものが写り込んでいた。

 圭介はその部分を少し拡大してみる。

「ん!」

 しばらく黙り込んでその画像を見入っていたが、

「何か人の顔のように見えるけど何だろう?」

 さらに拡大してその部分を完全にアップにしてみた。後ろで見ていた女性陣が「ひっ!」という声と共に身体を仰け反らせる。

 そこに写し出されていたのは、白目の部分が無く穴が開いているような真っ黒な目に、大きく開き何かを叫んでいるように見える異様な形をした口、そして数本の長い髪が顔の中心辺りに垂れ下がっている女性とおぼしき姿が写っていた。

「こ、これって心霊写真?」

 後ろに少し離れてみていた美穂が呟くように言った。

「いや、まだそうと決まったわけではないから、他の写真も確認してみよう」

 圭介は画像を元の全景にして、サムネイルに戻ると、

「最初からもう一度見るから、みんなもよく確認しながら見て」

 そう言って、再度一枚目から全画面表示を始めた。六人の目で慎重にゆっくりと確認しながら、画像を進めていく、全部で約二百枚、前半の百枚を見たところで一旦休憩を取った。

 流石に目も疲れてくる。そして日も暮れ始めて外は薄暗くなっていた。時間も七時を回りそろそろ学校から出ないと色々と問題になる時間だ。

「そろそろここを出ないとまずいから、残りは僕が確認しておくよ」

 圭介が部長の立場もありそう切り出し、今日のところはこれで解散することにする。ちなみに前半百枚の中には先程見た一枚だけにそれらしきものが写っているだけだった。

「少し暗くなってきたから、同じ方向に変える橋本君と笹本君と山本君は一緒に帰るように。早川君と長谷川君は僕が送っていくから」

 








第一章 「撮影会を始めます」はまだまだ続く。

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