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幼馴染は婚約者 「写真部怪奇事件」     第二章 「怪現象が起こりました」 5

第二章「怪現象が起こりました」  5



  美穂の家に入ると、両親に軽い挨拶をして美穂の部屋に行く。真理恵を連れてきたのが正解だったのか、両親は気兼ねない対応で迎え入れてくれた。

 美穂の部屋は女性らしく綺麗にそして可愛らしい雰囲気でまとめられている。圭介は下心のない目で部屋を見渡すと、ベッド脇のテーブルの上に置いてある目覚まし時計で視線を止めた。

「あれが問題の時計?」

 そう言いながら近づいていく。

「そう、でも取り敢えず座って」

 美穂はベッドと机の間に置いてある小さな丸テーブルを勧める。その時部屋のドアからノックの音が聞こえたかと思うと、ドアが開き母親が手にトレーを持って入ってきた。

「こんな物しか無いけれど、ゆっくりしていって下さいね」

社交辞令な言葉を述べながらテーブルの上に置いた。

「有り難うございます。遠慮無く頂きます」

 圭介は立ったまま頭を下げお礼を言った。真理恵も後に続いてお礼を言う。母親は圭介の顔をまじまじと見ながら、

「中山圭介さんは、失礼な言い方かもしれないけど、あの中山さん?」

「そう、あの中山君よ」

 代わりに美穂が即答した。

「もし良かったら美穂に勉強教えてあげてね。この子が世界から天才と呼ばれている中山君と知り合いだったなんて……」

 不躾な言葉に、

「もういいから下に行って」

 母親の言葉を最後まで言わせず、恥ずかしそうな表情をして、両手で押し出すように入口の方に誘導した。部屋の外に母親が出ると自らドアを閉める。

「ごめんね、気にしないで」

 初めて見る美穂の動揺した姿に、圭介と真理恵は少し親しみを感じた。これだけの美貌の持ち主だと高飛車なイメージが一般的にあるが、ドラマや小説のようなことは実際には無いということを実感してくる。綺麗に生まれてくると言うのも一概に良いことばかりではないようだ。

「ところで例の時計見せてくれない」

 圭介がナイトテーブル上に置いてある時計を指差しながら言うと、美穂が時計に歩み寄りそれを手に取ると圭介の前に持ってきた。圭介はその時計を受け取り色々な角度から細見いしていたが、なんの変哲もない一般的な時計だということを確認すると、真理恵の前にそっと差し出した。今度は真理恵が手に取り、同じようにまじまじと見ていたが、やはりどこにでもある時計だと判断したようだ。

 再び圭介に渡し、圭介はその時計を上下逆さまに立てらそうとするが、アラーム停止ボタンが邪魔をして上手く立てることが出来ない。

「本当にこの時計が逆さまに立っていた?」

 圭介の疑問に、

「多分……」

 自信のなさそうな言葉が返ってきた。今更ながらその事象に現実感が無くなってきたようだ。

「ひょっとしたらサードマン現象かもしれないな」

「サードマン現象?」

 真理恵と美穂がシンクロしたように同時に言った。

「昨日の奇妙な写真のせいで、早川君は不安を感じたはずだ。ひょっとして早川君は極度の怖がりじゃないか?」

 美穂が小さく頷く。その動作を見て圭介は話を続けた。

「人間というのは大きな不安や自分ではどうしようもない絶望感を心に抱えると脳の中の角回というところが現実と想像をつなぎ合わせて一種の幻覚を見せるんだ。多分昨夜僕の言った何か起こると大変だからという言葉と極度の怖がりが潜在意識に反応してそういう現象が起こったのだと錯覚したんだと思う」

 話を聞いていた二人は、多分全く理解できていないのだろう。ぽかんとした顔をしている。

「圭ちゃ……、部長、相変わらず訳の分らないことをよく知っていますね」

 理解するつもりすらないような言葉を焦ったような口調で真理恵が言った。

「あくまで科学的に見た仮説だから、実際のところは分らない。本当にオカルト掛った現象かもしれないし、別の現象で説明できるかもしれない。僕なりにもう一度例の写真のことも踏まえて考えてみるよ」

 その後、例の現象に解決点を見いだせなかった三人の話は、膝を突き合わせ座談会のように他愛のない会話となり、真理恵の会話に圭介がフォローを入れるという場面が度々あった。

「どうやったら中山君のように頭がよくなるの?」

 一度聞いてみたかったのだろう、美穂はここぞとばかりに圭介に尋ねた。

「僕は決して頭が良い訳ではないよ。たまたま人より少し知識があるだけだよ。知らないことだって沢山あるし、それに頭良いというのは知識があって勉強ができるということではなくて、どれだけ周りに対して臨機応変な対応ができるかどうかだと思うけど」

 圭介は自論を述べると、

「中山君が言うと、嫌味に聞こえないのが何だか少し悔しいような気もするけど、長谷川さんはどう思う?」

 急に話を振られて、真理恵は“えっ!”という顔をしたが、少し考えるような素振りをして、

「そうですね。中山先輩は確かに頭が良いけどそれをひけらかす訳でもないし、誰に対しても分け隔てなく接するから取っ付きやすいと思います。私は中山先輩の性格は好きですよ」

「それって告白?」

 美穂は冷やかすような口ぶりで言うと、

「べ、別にそういうわけでは…」

 真理恵が口籠っていると、

「長谷川君、そろそろ帰ろうか」

 隣にいた圭介が助け船を出してくれた。既に昼が近くなっている。これ以上居ると迷惑になりそうなので立ち上がろうとした時、思い出したように、

「そうだこれを早川君に渡しておくよ」

 圭介はズボンの後ろポケットからなにやら紙を取りだして美穂に渡した。美穂はそれを受け取り中を確認する。そこには『二舌の護剣』という文字が書かれており、その後になにやら奇妙な文章が書かれていた。

「これ何?」

 美穂は気味悪そうに圭介を質す。

「スエーデンの中部地方に伝えられる一種のお守りみたいなもので、邪悪な物を退散させると言われている。今回のものに悪意があるかどうかは分らないけど、万が一のために持っておいて」

 ここまであっさりと言われると、“ありがとう”と言うことしかできない。圭介なりに何か出来ないかと考えたのだろう。日本のお札では無く西洋の魔除けを選ぶところは圭介らしいかもしれない。

 美穂はその紙を折りたたむと机の上に置いた。

「お邪魔したね。何か気になることが出てきたらいつでも連絡して」

 圭介はそう言って部屋を出た。玄関先で美穂と母親に見送られながら家を出ると、その足で近所の時計店に行き美穂の時計と同じものを購入した。そのまま圭介の家に向かい圭介の部屋で同じ二つの時計を見比べ、それを縦にしたり横にしたりと色々と検証してみた。

「本当にこの時計が逆さまに立ったのかしら?」

 真理恵の疑問も当然かもしれない。色々と試してみたがどうやっても正位置以外で立てるのは不可能のように思える。周りに受けを作って支えると立つことは立つがあんなものが在ると絶対に気が付くだろう。紐か糸で釣り下げるにしても時計の方に固定するのが難しい。

「早川君が嘘を言っているとは思えないし…。やはり幻覚のようなものを見たのかな?」

 圭介も腕を組みながら考え込んだ。

「そういえばさっき言っていたサードマン現象というのはどう?」

 二人の間で疑問符が飛び交う。

サードマン現象というのは生死に係る時に起こる現象だから、あの時はそう言ったけどちょっと違うような気がする。何か物理的な作用が働かないと逆さまに立つのは難しいと思う。それか見えない何かが時計を支えていたとか」

「それって少し怖くない?…まさかあの写真の女性?」

 自分の言った言葉を想像したのか、肩を小さくすぼめながら圭介の顔を見た。

「うーん。一体どういうこと何だろう?」

 いくら考えても、説明できる検証が思いつかない。しばらく沈黙が続き静かな時間が過ぎていく。

「駄目!何も思いつかない。圭ちゃん気分転換にどこか行かない?」

 真理恵は考えるのを諦め、別の提案をした。

「折角の休み何だから何処かへ行こうよ!」

 圭介は真理恵の方に向き一テンポおいて、

「そうだな、気分転換したら何か別の発想が出てくるかもしれないな」

「そうそう。私観たい映画があるんだ」

「わかった、二人で出かけることなんかほとんどないから玉にはいいか!」

「やった!」

 真理恵は圭介の腕に絡むようにしがみつくと嬉しそうな表情で圭介を見上げた。二人の間に甘い時間が流れようとしたその時、圭介のスマホが着信音を鳴らした。

「はい、中山です」

『由貴だけど、昨日の写真の件どうだった?』

 いきなりの疑問符。これをあっさりとしているというのか、非常識というのかはわからないが、相変わらず気さくな性格をしている。圭介も慣れているのか、

「今、早川君のところに行ってきたところだよ」

 いつものように答える。

『えっ!何で?』

「今朝早川君から電話が入って、昨夜奇妙な出来事が起こったらしんだ。それで早川君の家に行って何が起こったのか聞いてきたんだ」

 圭介は今朝の出来事を簡単に説明すると、

「それに昨夜写真を確認していたら、例の女性らしき写真が四枚写っていたんだ。そうだ!もし時間が取れるなら昼から部室に集まってみんなの意見を聞きたいと思うんだけど他のメンバーに連絡してくれないか?早川君に起きた事象もその時説明するよ」

 その提案に隣にいた真理恵が不機嫌そうな顔をして圭介の肩を軽く叩いた。

「痛っ」

『どうしたの?』

「いや、何でもない」

 圭介は真理恵の方に向いてしかめっ面をする。

『じゃあ、早苗と真理恵に連絡するから、橋本君には圭介から連絡しといて。時間はこっちで決めていい?』

「ああ、頼むよ」

『わかった、そしたら後でまた連絡する』

 そういって電話を切った。圭介がスマホを机の上に置くと、

「圭ちゃん、映画は?」

 真理恵が不満げに質す。

「ごめん、また今度にしよう。今はこっちの方を優先した方がいいと思う」











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